昨今の新型コロナウィルス感染症の拡大により、中小企業にも広くテレワークの社会的要請が発生しています。中小企業では相対的にテレワークの導入率が低い現状ですが、なぜそうなっているのか・何が対策として必要なのかを広く解説しました。是非ご覧ください。
中小企業でもテレワークは導入すべき
テレワークを導入すれば、多くのメリットが望めます。場所と時間を問わない働き方ができるので、優秀な人材の確保や業務効率の改善につながります。更に新型コロナウィルスの影響・働き方改革の影響もあり、現在は国や自治体でも補助金のバックアップを積極的に行っています。上手く活用して初期投資のコストカットにつなげ、テレワーク環境を実現しましょう。
現状は大企業にテレワークの導入率で遅れがある
2020年4月時点で、都内の中小企業で約60%の企業がテレワークを導入したとの結果でした。一方で、従業員1,000人以上の大企業は、約85%の企業がテレワークを導入しているとの結果が出ています。そのうちの約4割の企業が、コロナウイルス以前からテレワークを導入していました。緊急事態宣言の解除後も多くの企業で従業員からテレワークの継続希望が強いこともあり、さらに導入が加速する模様です。
中小企業は、都内こそ約60%の企業がテレワークの導入を行いましたが、全国平均で見ると約25%に留まっています。日本国内は1%の大企業と99%の中小企業で成り立っており、企業数の大部分を占める中小企業での実施率が全国で1/4という現状を考えると、リモートアクセス環境を整えてテレワークの普及が全国的に広まるのは相当な時間が必要です。
業種毎に導入率は大きく異なる
テレワーク実施率の高い業種と職種をまとめました。医療や介護、飲食サービスなどテレワークを活用した働き方ができない業種は、どうしても低い結果になってしまいます。
業種別実施率
業種 | テレワーク実施率 |
情報通信 | 76% |
金融・保険 | 56% |
不動産 | 48% |
運輸業 | 15% |
宿泊・飲食 | 14% |
医療・介護・福祉 | 6% |
職種別テレワーク実施率
実施率が高い職種 | 実施率が低い職種 | |
内容 |
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中小企業でテレワーク導入が進まない理由・背景
理由を3つ挙げました。
- ペーパーレス化が進まない
- ICT環境整備への投資に消極的
- 経営層がテレワークの導入に消極的
順番にみていきましょう。
ペーパーレス化が進まない
書類=紙である意識を変えない限り、テレワークの導入は進みません。上司に書類の捺印をもらうためや大半の書類を紙の状態で保存しているなど、出社前提で業務をする体制が組まれています。ペーパーレスは、いきなり全ての書類を電子データ化するのではなく、「徐々に紙での書類を減らす」考え方です。段階的な導入が不可欠であり、いきなり全ての書類を電子化すると従業員への負担が大きく、業務効率の低下が懸念されます。
まずは、印刷機会の減少と書類の保存方法の分別から始めましょう。例えば、会議の度に印刷した書類を用意していた場合は、モニターや各自のPCで議題内容を映して会議を進めます。そして、見積書や発注書、経理データなどはPDF化して、社内のファイルに格納してください。電子データとして保存しておけば、探す手間も省くことが可能です。
紙の使用量を減らしていくことに慣れることが、ペーパーレス化推進の第一歩となります。
ICT環境整備への投資に消極的
ICTは(Information and Communication Technology)の略語です。ノートPCやスマートフォン、タブレット端末の支給やVPN(Virtual Private Network)と呼ばれるインターネット上に仮想の専用線を敷いて、データ通信を行う仕組みの導入などを指します。つまり、社外から社内システムにアクセスするための端末やネットワーク環境を整えることです。
中小企業でICT環境が整備されない理由はなんでしょうか。最大の理由は、数百万円単位のコストがかかる点です。大企業ほど資金的な余裕がない中小企業にとっては、大きなコストになります。 経営者は、売上が良い状態が継続すれば導入にも前向きになれますが、売上が厳しいと現状の設備を活かして売上を上げる施策を考えます。ICT環境の整備は短期的に見ると大きなコストが発生するだけで、すぐに売上につながるものではありません。経営状況を見極めながらの判断になるので、中小企業が設備投資に慎重な姿勢になるのは、ある程度理解できるでしょう。
経営層がテレワークの導入に消極的
現場の社員がテレワークの導入に強い要望を出しても、経営層の意識が変わらない限り、早期のテレワーク実現は困難になります。企業の施策や政策を決定するのは経営層だからです。経営層がテレワークの導入意義やメリットについて、理解することが大切です。
短期的に見ればテレワークの導入は大きなコストの発生しか見えなくても、長期的に見れば優秀な人材の確保や企業のイメージアップにつながります。例えば、今まで出産や結婚を機に家庭や育児の両立が難しく仕事を辞めた女性たちが多くいました。テレワークの導入が実現すれば、労働意欲が強く優秀な女性たちの退職を防げます。
新たな人材を獲得するのにもコストがかかり、企業にとっては大きなメリットです。また、若い20代~30代の世代は多様な働き方を認めている企業を求める傾向も強く、テレワークの導入は求職者への大きなアピールとなります。一方で、社員としても仕事を続けられる選択ができるので、人生の幅が拡がります。
適切なツールやサービスでテレワークを実現
SmartHR・SanSanなどのクラウドサービスでペーパーレスを実現
労務システムであるSmartHRや名刺をクラウド上で管理するSanSanを導入すれば、ペーパーレス化と業務効率改善につながります。
SmartHR
SmartHRが提供しているクラウド型の労務管理システムです。雇用契約や入社手続きなどをシステム上に従業員が直接入力するので、管理や業務負担が大幅に軽減されます。楽天や富士ゼロックス、亀田製菓など数多くの企業が導入していました。
機能 | メリット | 導入企業例 | |
特徴 |
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SanSan
SanSan㈱が提供する主に営業部隊の強化を目指す企業をターゲットとしたクラウド型名刺管理サービスです。顧客データやアプリケーションとも連動しているので、マーケティング戦略や業務効率改善に期待ができます。
機能 | メリット | 導入企業 | |
特徴 |
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Chatworkなどのコミュニケーションツールで、テレワークを実現
ChatworkやSlackなどビジネスコミュニケーションツールを導入すれば、社内外でもスピーディーなコミュニケーションが可能です。
機能 | メリット | 導入企業 | |
Chatwork |
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Slack |
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多要素認証でセキュリティ強化
多要素認証は、Webサイトやアプリケーションのログイン時に、ユーザーIDとパスワードだけでなく、SMSを使っての認証番号の入力や指紋認証など、複数の認証を組み合わせることを指します。1つのパスワードでの使い回しは便利な反面、情報流出につながるリスクがあります。複数の認証手段を課することで、精度の高い本人認証を実現可能です。
Webサイトやアプリケーションのログイン時に、パスワードとスマートフォンにSMSで送られる2段階認証を突破しないとログインできない設定にした場合、手元にスマートフォンがなければ入力できません。つまり、本人の手元にスマートフォンがあることが証明されます。同時に、多要素認証を利用しておくと、本人以外の何者かが社員のIDを使ってシステムやアプリケーションにログインしようとしている場合、不正アクセスを検知・遮断することができます。
中小企業がテレワークを導入する事のメリット
人材不足の解消
テレワークを導入することで得られる、3つのメリットをまとめました。
- 新たな人材の確保
- 優秀な人材の確保・流出防止
- 業務効率改善
新たな人材の確保
場所や時間を問わず働ける環境を整えることで、新しい人材の確保の採用地域を拡げることが可能です。例えば、東京に拠点のある会社の場合、神奈川、埼玉、千葉といった近隣の県に住む求職者しか採用できませんでした。しかし、働く場所を気にする必要がないので、企業が求める能力を持った人材をより確実に確保できます。
優秀な人材の確保・流出防止
過去、結婚や出産、介護などを理由に退職した女性たちが多くいました。オフィスへの出社ありきの働き方だと、育児や家事などとの両立が難しかったからです。テレワークの導入により、仕事とプライベートの両立ができます。企業としては、仕事ができる優秀な人材の流出を避けるだけでなく、新たな人材の採用コストをかけずにすみます。従業員としては、仕事とプライベートの両立や働き方の選択肢が拡がります。
業務効率を改善
通勤が無くなるため、通勤時間を業務時間や睡眠時間の確保にあてることが可能です。通勤が無くなるのは、大きなメリットではないでしょうか。特に首都圏の通勤ラッシュは満員電車であることが多く、体力的にも精神的にも多くの負担がかかります。リラックスできる自宅でオンとオフのメリハリをつけながら、仕事をしましょう。
企業のブランディング
政府や求職者への良い企業アピールになります。テレワークの導入や働き方改革の実現に取り組む企業は、労働条件の整った「ホワイト企業」と評価される傾向にあるからです。
また、若い20代を中心に多様な働き方の実現やワークライフバランスの良さを企業に求める意識は、近年増してきました。過酷な労働条件で働くブラック企業の実態の情報を掴めるため、「ブラック企業への入社は絶対に避けたい」と思っているからです。ホワイト企業には多くの求職者が応募するため、能力の高い優秀な人材を確保できる可能性が高まります。
会社の固定費削減・コストカットにもポジティブ
オフィスの賃料・光熱費
拠点を構えるオフィスの賃料、照明代、冷房・暖房といった光熱費、椅子やデスクといった備品費などの費用をカットできます。テレワークが全面的に導入されて問題なく業務が進めば、オフィスを構える必要はありません。毎月発生していたランニングコストも支払わずにすみます。首都圏のオフィス賃料は非常に高いため、オフィスの売却はもちろん、規模縮小だけでも相当なコストカットが期待できます。
社員の交通費
社員がオフィスへ通勤する必要性が無くなるので、移動コストを大幅に削減できます。オフィスの拠点から離れた場所に住む従業員も一定数いることを考えると、大きなメリットではありませんか。また、営業職の社員に対して直行直帰の営業スタイルを認めることで、移動コストと移動時間の削減につながります。営業マンとしても、商談回数の増加や空き時間を利用した効率的な働き方、ストレスの軽減など多くのメリットがあります。
BYODをするなら機器代や通信代
BYOD(Bring Your Own Device)は、自分の私物であるPCやスマートフォン、タブレット端末を業務に利用することを指します。企業側は業務用の端末を用意しなくていいため、通信費や機器代のコストカットにつながるのがメリットです。一方で社員は複数の端末を使わずにすみ、慣れている自分のデバイスで業務ができるので、ストレスを抱えずに業業ができます。
双方にメリットがありますが、懸念点もあります。
一つはサイバー攻撃による情報流出のリスクです。紛失や盗難にあった場合、大事な機密データや顧客データを失いかねません。従業員にセキュリティ対策や教育を徹底する必要があります。仮に顧客データを失った場合、企業の経済的損失は計り知れません。取引先の信用も失うため、今後のビジネスも苦しい状況に追い込まれるからです。
もう1つは従業員の管理が難しくなります。従業員の勤務態度が見づらくなり、私用として使っているのか、業務用なのか区別がつきません。結果的に、働きすぎや逆に全く仕事をしていないなど個々の社員の仕事の進捗状況を掴みにくくなり、かえって管理面の負担が増大する形になります。
中小企業が使うべきテレワークの助成金
厚生労働省「働き方改革推進支援助成金」<旧:時間外労働等改善助成金(テレワークコース)>
厚生労働省が発表した中小企業向けのテレワーク推進のための助成金制度です。下に支給金の上限や適用率、対象企業の条件をまとめました。
支給額と取り組み
支給金条件 | 達成 | 未達成 | 取り組み例 |
補助率 | 75% | 50% | |
1人当たりの上限 | 40万 | 20万 | |
1企業当たりの上限 | 300万円 | 200万円 |
対象となる中小企業事業主
対象事業主 | 業種 | 助成金額 | 従業員数 |
| 小売・飲食店 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 | |
卸売り | 1億円以下 | 100人以下 | |
その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
東京都|はじめてテレワーク(テレワーク導入促進整備補助金)
東京しごと財団が独自に実施している、都内の企業向けの補助金になります。テレワークのトライアルや制度を整備するための補助金です。補助金を受けるための条件と補助金の額をまとめました。
必須内容 | ||
補助対象事業者 |
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補助対象費用 |
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補助金対象企業と金額
従業員数 | 補助金額 | 補助率 |
300人~999人 | 110万円 | 100% |
100人~299人 | 70万円 | |
従業員数100人未満 | 40万円 |
経済産業省|IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業を中心に自社の経営状態の見える化、業務効率の改善などを目的に、ITツールを導入するための補助金です。順次締め切りが設定されているので、補助金を検討している方は早めの決断をおすすめします。
補助金種類
A型 | B型 | 特別枠 | |
補助上限額・下限額 | 30万~150万円未満 | 150万~450万円 | 30万~450万円 |
補助率 | 1/2 | 2/3又は3/4 | |
補助対象経費 | ソフトウェア、クラウド利用費、専門家経費等 | ソフトウェア、クラウド利用費、専門家経費等の購入+PC・タブレット等のレンタル費用が対象 | |
備考 | 2/3の場合:
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補助対象者一覧
業種 | 資本金 | 従業員数 |
製造業、建設業、運輸業 | 3億円 | 300人 |
卸売り | 1億円 | 100人 |
サービス業(ソフトウエア業、情報処理サービス業、旅館業を除く) | 5,000万円 | 100人 |
小売業 | 5,000万円 | 50人 |
ゴム製品製造業(自動車、航空機用タイヤ及びチューブ製造、工業用ベルト製造業は対象外) | 3億円 | 900人 |
ソフトウエア業又は情報処理サービス業 | 3億円 | 300人 |
旅館業 | 5,000万円 | 200人 |
その他 | 3億円 | 300人 |