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コンプライアンスとは?法令遵守の考え方についてわかりやすく解説

大手企業の不祥事などで、コンプライアンス違反という言葉を耳にすることが増えました。コンプライアンス法令遵守と訳されることも多いですが、本当の意味や考え方についてよくわからないという方も多いのではないでしょうか。

当記事では、コンプライアンスの意味や目的、コンプライアンス違反が起こる原因や身近な事例、コンプライアンス遵守に向けてすべきことなど、法令遵守における考え方を解説していきます。

コンプライアンスとは

コンプライアンスとは、企業などの組織が法令や規則を守ることを指します。日本語に直訳すると法令遵守とも呼ばれています。コンプライアンス法令遵守だけの意味合いとして考えるとすれば、組織や個人の利益よりも法で決められたことを守りながら経営活動ができていれば問題ありません。しかし、企業におけるIT活用や多様性への取り組みが注目されている現代社会では、倫理観や社会道徳などの法律で定められていないことにも視野を向けながら、時代の流れに沿った企業経営が求められます。

コンプライアンスに含まれる内容

コンプライアンスという言葉が注目され始めたのは、2000年以降のことです。アメリカでは2001年にエンロン事件、2002年にはワールドコム事件などの大規模な会計不祥事があり、日本でも食品偽装事件や粉飾決算が相次ぎました。その結果、金融商品取引法の中で財務報告の監査や報告に関する決まりが制定されました。

先にも書いたように、コンプライアンス法令遵守)という意味だけで捉えるならば「法に従っていれば問題ない」ということになりますが、倫理観や社会道徳にも視野を向けると以下のような内容も含まれてきます。

企業倫理

企業活動を行う上で、最重要となる基準を指します。例えば、自然環境や人権保護を考慮し、その目的を達成するために必要な組織を統率する仕組み、組織運用の考え方などが当てはまります。

社会規範

社会的な常識や慣習、伝統などを指します。例えば、ある時代では受け入れられた行動や発言だとしても、現代社会では非常識だと批判される可能性もあります。企業活動を継続していくためには、時代の流れも考慮しつつ、社会の一員として適切な行動や発言が求められます。

社内規範

就業規則やマニュアル、業務フローなど、従業員が社内で守らなければならないルールを指します。

コンプライアンス遵守の目的とは

そもそも企業は何のために存在しているのかを考えたとき、世の中が求める困り事やニーズを解決すること、従業員の生活を守ることなど、時代によって様々な目的があると思います。その中で「マネジメント」という概念を作り、書籍もベストセラーになったP.Fドラッガーは、「企業の目的とは顧客の創造であり、顧客によって事業は定義される」と主張しました。

どのような企業や組織も、それぞれの役割によって成り立っているというドラッガーの主張で考えるならば、組織の存続には社会的な信用が不可欠だといえます。

企業の社会的責任(CSR

人も組織も、信頼を構築するのには時間がかかりますが、信頼を失うのは一瞬です。「バレていないからいいや」とか「周りもやっているから」という甘い考えで自社や個人の利益のためにコンプライアンス違反をすることは、企業の社会的信用の失墜はもちろん、個人の将来にとっても悪影響を及ぼす可能性があります。

つまり、コンプライアンス遵守の目的は、企業の社会的信用を高め、企業活動をしやすくするためだといえます。企業活動がしやすくなれば個人の働きやすさにもつながり、就労環境が良くなることで組織運営もスムーズになります。さらには顧客満足度も上がり、企業の社会的影響力も増していくという好循環が生まれるでしょう。

コンプライアンスはなぜ重要なのか

コンプライアンス遵守の目的でも書いたように、企業の社会的信用を高めていけば企業活動はしやすくなります。例えば、似たような商品を買うときに全く知らない人から紹介されるよりも、友人に勧められたりメディアやSNSで話題になっている商品のほうが良い商品だと感じませんか?このように信用があるところから物を買いたい、サービスを受けたいというのが人の心理です。

隠していても隠しきれない時代へ

「正直者が馬鹿を見る」ということわざがありますが、インターネットが普及したことによりそうとも言えなくなりました。インターネットがない時代では企業の内部事情を隠し通せたとしても、昨今ではSNSなどの口コミや内部告発によって明らかになることが増えたからです。つまり、企業が今の時代に求められているのは、企業の目的と実際の企業活動が一致した正直な経営であり、結果的に企業の市場価値が高まります。この企業の目的と実際の企業活動を一本の軸にするためには、コンプライアンス遵守が不可欠だといえるでしょう。

コンプライアンス違反はなぜ起こるのか

コンプライアンス違反は、法令や社会的道徳に反しているとわかっていながら、過剰な利益追求を続けてしまうことで起こります。または、法律に関する知識不足によって、コンプライアンス違反に気づいていなかったという場合も考えられます。どちらにせよ、コンプライアンス違反には組織的な認識不足が考えられるため、早めの対処が必要です。

利益を過剰に求める企業風土

先ほどのP.Fドラッガーの言葉でもあったように、「顧客によって事業は定義される」と考えるならば、顧客のニーズに応えることと過剰な利益を追求することは必ずしもイコールになりません。サービス向上のためには設備や人材育成に投資する利益は必要ですが、売上目標を達成するために従業員に過剰なノルマを課してしまうとズルをしようとする人が現れます。プレッシャーから逃れるために顧客から無理な注文を取ったり、規則を守っている人が割りに合わない組織運営になっていたりすると、コンプライアンス違反を助長する環境になってしまいます。

組織体制や職場環境に問題がある

「会社の常識は社会の非常識」といわれるように、普段当たり前に行っている業務がコンプライアンス違反になっていないか定期的に見直す必要があります。特に、部署間でのコミュニケーションが少ないと盲点が生まれやすいため注意しましょう。例えば、よく使う資料だからといって機密情報を出しっぱなしにしているなど、第三者から見れば「まずいんじゃない?」と思えることもないがしろになりがちです。業務効率を優先した結果、社会的信用を失うことにならないように社内ルールを制定し、遵守する環境づくりが重要です。

コンプライアンスへの意識が足りない

企業がどんなに明確な社内ルールを定めていても、すべてを熟知するのはほぼ不可能です。さらに、企業で働く従業員、役員、経営者は、生活環境や生まれも育ちも違うため、さまざまな価値観を持って働いています。どんなにコンプライアンス違反になり得るリスクを防いでいたとしても、個人が「これくらいなら大丈夫だろう」とか「そうせざるを得なかった」と言わせてしまう職場環境に問題があります。普段から社内ルールに対する知識がどの程度あるのか、ちゃんと機能しているのか、周囲が指摘し合える環境や関係性ができているのかなど、コミュニケーションを取りやすい環境づくりをしていく必要があります。

コンプライアンス違反の種類

1955~1973年までの日本は高度経済成長期と呼ばれ、技術革新により生産量が大幅にアップしました。年平均で約10%もの経済成長を続けた反面、消費者の命に関わる事件も多数起こりました。その後バブルが崩壊し、1990年後半に経済活動に対する規制緩和が進み、自由競争を加速させる動きが強まりました。この結果、競争が激化し、利益追求を重視しすぎた企業がコンプライアンス違反に走ってしまうという事態になってしまったのです。

このように利益追求を重視した粉飾決算や偽装事件などが話題になりがちですが、主なコンプライアンス違反の種類としては以下のものがあります。

  1. 企業の公正な競争を阻害するもの
  2. 消費者が不利益を被るもの
  3. 投資家の公正な判断を阻害し、不利益を被るもの
  4. 従業員の健康や人権を阻害するもの
  5. 地域汚染、住民の不安につながるもの
  6. 脱税行為、政治的関与などにつながるもの

身近で起こりやすいコンプライアンス違反の例

上記で紹介したもの以外にも、何気なく行っている業務や会話がコンプライアンス違反につながるケースもあるため、十分注意しましょう。

誇大広告、デメリットを開示しない

ホームページや商品ページなどに、「~に効きます」などの根拠がない効能や、「業界ナンバー1」などの事実とは異なる評価を表示してしまうと、薬機法(旧薬事法)や景品表示法などに違反してしまいます。また、自社サービスを販売する際に、顧客の不利益につながる情報を開示しないとコンプライアンス違反となる可能性があります。

必要のない残業、または無断でサービス残業をする

従業員が残業代を不当に得るために、残業の必要がない業務で残業代を得ることはコンプライアンス違反となります。また、上司に無断でサービス残業をすることも、企業側が従業員の労働時間の把握、管理を怠ったとみなされる可能性があるので注意しましょう。

SNSへの投稿や公の場での不用意な発言

SNSでの発言は誰が見ているかわかりません。また、社員が集まる会食などの席でも、個人情報などが誰かの耳に入ってしまう可能性もあります。特に、お酒の席では不用意な発言をしてしまう場合も多くなるため、十分気をつけましょう。

不正利用

会社から支給されているペンや備品、コピー用紙など、私的な利用目的で持ち帰ると窃盗の疑いにかけられる可能性があります。あくまでも、自分で購入していない備品については、会社の所有物となります。

コンプライアンス違反を起こしたらどうなるのか

帝国データバンクの調査によると、コンプライアンス違反で倒産した企業の件数は以下のようになっています。(2020年4月の集計)

1 2020年度のコンプライアンス違反倒産は182件判明。前年度(225件)比19.1%減少した。

2 違反類型別では「粉飾」が57件で最多。「その他」を除くと、「資金使途不正」が26件で続いた。

3 主な倒産事例は、架空取引で連鎖倒産を引き起こした「FEP」や診療報酬の不正請求が告発された「MJG」など。

引用元:株式会社帝国データバンク ホームページ 「コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2020年度)」調査結果より抜粋

上記のデータからも、負債額を適切に記載しなかったり、利益として計上すべき額を明記しなかったりするケースが多いことが伺えます。

では、コンプライアンス違反を起こしたとき、どのような結果になるのでしょうか。

損害賠償請求

刑事事件の罰金刑では、数百万円から数百億円を支払わなければならないケースもあります。また、民事事件として損害賠償命令が出た場合にも、同等の賠償金を支払わなければなりません。

風評による顧客離れや売上の減少

「あの企業は過去に不正を働いた」というだけで、購入をためらう顧客が増える可能性があります。また、今まで信頼関係のあった顧客からの信用も失い、大幅な売上ダウンにつながりかねません。

社会的信用を失い、倒産

社会的信用を失うことで銀行からの融資を受けられず、資金繰りができない可能性があります。また、認可が必要な事業では事業を継続できなくなり、倒産に追い込まれることになります。

コンプライアンス遵守に向けてすべきこと

コンプライアンス違反をしないためには、ガバナンスが重要になってきます。企業におけるガバナンスとは、コーポレートガバナンス(つまり企業統治)のことで、企業活動が問題なく行われているかを、第三者の立場から監視、評価する仕組みのことを指します。こうすることで、コンプライアンス違反に当たる行為を速やかに修正し、研修などによってコンプライアンスへの意識を高めることができます。

コンプライアンス遵守を推進するには、以下の3点が重要となります。

内部統制システムの構築

内部統制を簡単に説明すると、企業のビジョンや事業目的に対して、そこに向かっていくための環境整備やルール作成、業務フローの構築、適切に運用されているか評価、改善することです。2009年から、上場している企業は財務報告に関わる内部統制報告が義務付けられています。具体的には、内部統制に関する運用状況を把握し、不備への対応と改善を行った上で、評価内容をまとめた内部統制報告書を作成します。この際に、独立した立場の公認会計士監査法人が監査を行います。

このように、第三者が介入して組織経営のあり方や業務プロセスをチェックすることにより、コンプライアンス違反になり得る芽を早期に発見できます。昨今では内部統制システムの構築により、IT統制を強化する動きも見られます。SaaSを積極的に活用している企業であれば、IDaaSの採用もこの動きの一貫と言えます。

コンプライアンス研修の実施

内部統制システムの構築によって、会社レベルでの問題は把握できますが、個人レベルでの問題となると見逃されがちです。新入社員、ベテラン問わず、「周りがやっているから問題ない」と見過ごされているものもあるかもしれません。無知からくるコンプライアンス違反は、単なる知識・認識不足の場合もあれば、企業風土も関係してきます。

そこで、従業員にコンプライアンス遵守への自覚を持ってもらうために、コンプライアンス研修を行うことが企業価値につながっていきます。コンプライアンス研修には、セクハラやパワハラ、個人情報の取り扱い、著作権の侵害、経費の申請など、従業員にとって身近に感じるテーマも多く、コンプライアンスへの意識付けがしやすくなります。

コンプライアンスマニュアルを作成、整備する

従業員に対するコンプライアンス遵守の意識付けができたとしても、繰り返し伝えていかなければルールにまで落とし込めません。また、社内ルールや規則が不十分では、コンプライアンスに対する意識も薄まってしまいます。そこで、どのような行動がルール違反になり、どのような罰則が課せられるのかを言語化することが重要です。法で定められたものや社会的規範に沿ったものを基本にして、企業ごとに独自のルールをマニュアル化することで、コンプライアンス遵守を促進できます。

まとめ

人も企業も、信頼を構築するのには長い年月がかかりますが、信用を失うのは一瞬です。コンプライアンスの意味や目的を理解し、普段からコンプライアンス遵守を意識した環境づくりをしていきましょう。