会社法について、ご存知でしょうか? 会社法は、会社の設立からM&A、組織の運営、資金の調達、解散など会社の経営に関するルールを定めた法律です。 健全にかつ適正に会社を経営、運用することを目的に定められており、経営者やこれから会社を立ち上げようと考えている起業家の方はもちろんのこと、会社で働くビジネスマンにも業務に関わる内容が多く含まれています。 会社を経営する人、働く人にとって会社法の知識は、欠かすことができません。 ここで、会社法の基礎知識から、新しく改正されたポイントまで、しっかりとおさえておきましょう。
会社法に関する基礎知識を身につけよう
会社法とは?
会社法とは、平成18年5月1日に施行された法律で、それまでは商法、株式会社の監査等に関する商法の特例法、有限会社法の3つに法律が分散されていました。3つに法律が分散されていることで不都合な点が多く、会社法として一元化し、統合されたという背景があります。 資本金1円で会社が設立できるということも、改正時に新しく定められたものです。 当時話題にもなったため、ご存知の方も多いのではないでしょうか? それまでは株式会社は1,000万円、有限会社の場合は300万円の資本金が必要でしたが、会社法の施行により現在は資本金1円から会社設立が可能になっています。これまでの常識を覆すものが多く、商法が成立した明治32年以来の大改正です。
会社法の3つの役割
会社法には、以下の3つの役割があります。
一つ目は、取引先の保護の役割です。 会社というものが法律によって明確化されていること、法人格が与えられていること、必要な情報を開示することによって取引を行う会社を守る役割があります。
二つ目は、利害関係者の利益達成、保護です。 会社には様々な利害関係者がいます。株式会社であれば、株主、銀行、取引先、消費者などが挙げられますが、各々が利益を得るために会社法では様々な規定を設けています。
三つ目は、法律関係への明確化です。 会社に関わる訴訟について、判決の効力や及ぶ範囲、責任、法的主張が可能な期間の設定などが定められており、法律との関係性を明確にしています。
会社法を構成する8編
会社法は次に紹介する8編で構成されています。
第1編. 総則(第1条~第24条)
会社法の趣旨から用語の定義、会社の名称である商号などについて細かく定められています。 例えば、有限会社が廃止され、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社の4種類となったこと、商号は自由に決められるが、株式会社の場合、商号の前後いずれかに「株式会社」の文字を入れる必要があること、事業を譲り受けた会社は、引き続き同じ商号を使用する場合に事業の債務を弁済する責任があるといった内容です。
第2編. 株式会社(第25条~第574条)
株式会社を設立する流れや、株式を発行する手順、株式総会や取締役会の設置、会計計算方法、解散や精算などの株式会社を経営する上での規定が定められています。 具体的には、株主は剰余金の配当を受ける権利がある、取締会を設置していない会社の場合は、株主総会は会社法に規定している事項と株式会社に関する一切の事項について決議をすることができるといった内容です。
第3編. 持分会社(第575条~第675条)
持分会社は、合名会社、合資会社、合同会社の3種類があります。2の株式会社で定めた内容のように、3つの会社形態について会社の商号から、設立手続き、社員の加入、解散、精算などが定められています。 例えば、合同会社は新しく導入された会社形態ですが、株式会社に近い形態でありながら設立が容易で、運営しやすいとされています。 利益配分が出資比率によらず、定款によって自由に決めることができるということも大きな特徴です。
第4編. 社債(第676条~第742条)
社債は、経営に必要な資金を調達するために、会社が公衆から借り入れを行う金銭債権のことです。 近年、銀行からの借り入れを行うかたちから、社債を発行し、市場を通して資金調達を行う流れになっており、法の整備が行われています。 今まで有限会社は社債発行不可だったものが、会社法施行により、株式会社をはじめすべての会社で社債発行が可能になりました。 社債の募集や譲渡、社債管理者の定義や社債権者集会など様々な規定が定められています。
第5編. 組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転(第743条~第816条)
会社組織の再編や組織変更、吸収合併や新設による合併、吸収分割や新設分割などの会社分割、株式の交換や移転など、M&Aを行う場合の手続きについて定められています。 組織変更は、近年積極的に行われており、例えばアマゾンジャパンやアップルジャパンが株式会社から合同会社に切り替えています。 その他、吸収合併時に消滅会社の株主は存続会社の株式に限定して財産が交付されていたものが、会社法により緩和され、親会社の株式等も認められるようになったということも規定されています。
第6編. 外国会社(第817条~第823条)
外国会社とは、日本以外の法律に基づき設立された会社のことを指します。 外国会社が日本で経営、取引を行う場合の規定が定められており、事業を行うには、日本において代表者を設定し登記するか、営業所を設けて登記するかいずれかが必要です。 その他、代表者のうち一人は日本国内に住所をもつことが必要であること、日本法人では商号に株式会社、合同会社を含める必要がありますが、外国会社には適用されず、「〇〇co.Ltd」といった表記で登記が可能といった内容が定められています。
第7編. 雑則(第824条~第959条)
株式会社の解散命令や訴訟、起訴のルール、登記方法や登記期限など登記に関するものについて定められています。 例えば登記について、以前は同一の市町村内で同じ商号や類似した商号を登記していた会社があった場合、同一の営業目的で同じ商号を登記することは出来ませんでしたが、会社法によって廃止され、自由に商号を登記することが可能になりました。登記は、法務局に登録して重要事項を公開する制度です。取引を始める際にも取引先が必ず調べる内容で会社の根幹でもあるため、慎重に行う必要があります。
第8編. 罰則(第960条~第979条)
取締役の特別背任罪や虚偽文書行使の罪、各種贈収賄罪など様々な罰則が定めれています。 例えば、取締役が、会社または子会社の資金で、特定の株主に利益を供与した場合に、利益供与の罪として3年以下の懲役または300万円以下の罰金のどちらか、もしくは両方が科せられます。利益を供与した取締役だけではなく、取締役を見逃した監査役や実際に利益を受け取った者にも罰則が科せられ、取締役のポケットマネーからで会社からの直接の供与でなかったとしても、会社のから供与されたとみなされ罰則が及ぶといったことが定められています。
会社法は、以上8編、全979条で構成されています。膨大で複雑な内容ですが、全てを覚える必要はありません。 まずは、2編の株式会社や3編の持株会社、7編の雑則から習得していきましょう。
新たに改正された会社法はどう変わった?【2021年3月施行】
2021年3月に会社法が新たに改正されました。約6年ぶりの改正です。 今回の会社法改正では、何がどのように変更されたのかでしょうか? 改正されたポイントから押さえておくべき重要な内容まで詳しく解説いたします。
1. 会社法8つの改正点
会社法改正では、主に以下の8つについて改正されました。
1. 株主総会資料の電子提供制度の創設 2. 株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備 3. 取締役の報酬に関する規律の見直し 4. 会社補償および役員などのために締結される保険契約(D&O保険)に関する規律の整備 5. 社外取締役に関する規律の見直し 6. 社債の管理に関する規律の見直し 7. 株式交付制度の創設 8. その他内容
改正内容は幅広く、大企業から中小企業まですべての企業の経営に関わる点が多く含まれています。 ここでは、この中から「重要な3つの項目」をピックアップいたしました。 以下の3つは多くの企業に当てはまり、大きな影響を受ける項目ですので、しっかり習得していきましょう。
ポイント1. 取締役の報酬に関する規律の見直し
会社法改正で、上場企業(公開会社かつ大会社である監査役会設置会社、かつ有価証券報告書の提出義務のある会社)の取締役会は、取締役の個人別の報酬等について、どのように決めるか取締役会で決定、決議し、開示することが定められました。 取締役の報酬は会社法上、定款または株主総会で決定する必要がありますが、大多数の会社が株主総会で決定しています。 株主総会では取締役個人別の報酬額を明確にする必要はなく、取締役全員の総額を提示することがほとんどです。 個別の報酬額については、代表取締役などに一任されていることも多いでしょう。この場合、取締役個人の報酬がどれくらいのものなのか株主は把握できず、不透明であるという声が多くありました。 この度の改正では、個人別の報酬額の提示は求めていませんが、取締役個人の報酬をどう決定するのかという方針を、取締役会で決定しなくてはいけないと定められています。個別の報酬額の決定を代表取締役が行っている場合には、具体的に誰に権限があるのか、報酬の決定方針のひとつとして取締役会で決議しなくてはいけません。従来のやり方から、より透明性を高める目的があるといえます。
ポイント2. 会社補償および役員などのために締結される保険契約(D&O保険)に関する規律の整備
会社法改正では、新たに会社補償や会社役員賠償責任保険(D&O保険)についてが新設されました。 従来の会社法では、手続きや内容について明確に定義されていませんでしたが、今回の改正により会社補償が法律として認められるかを含め、会社補償が認められるための内容や手続きについて明確に規定されています。 会社補償とD&O補償は、いずれも役員の損害賠償責任を補填するものですが、D&O保険は、通常、保険契約上、支払限度額などに制約がありますが、会社補償は、一定の要件に達していれば全額補償することが可能です。また、D&O保険は、会社は保険会社に保険料を支払い、保険会社から役員に保険金が支払われる流れですが、会社補償は会社から役員に直接支払いが行われます。 このような違いがあり、これまでの日本ではD&O保険を導入している企業が多いものの、会社補償を導入する企業は多くありませんでしたが、明確な規定が定められたことにより普及することが予想されます。
ポイント3. 社外取締役に関する規律の見直し
この度の改正で、上場企業(公開会社かつ大会社である監査役会設置会社、かつ有価証券報告書の提出義務のある会社)は社外取締役の設置を義務化されました。社外取締役の設置によって監督体制がしっかりなされているということを明確にし、 資本市場の信頼性を向上をさせるねらいがあります。ただし、上場企業では、以前から、コーポレートガバナンス・コードで独立社外取締役を最低2名選任すべきであると示されているため、社外取締役を1名以上置いている企業がほとんどでしょう。今回の改正は、日本企業への規制強化というよりも日本の資本市場への信頼度を上げることが一番の目的といえます。
以上3点が重要な項目ですが、これ以外にも「株主総会資料の電子提供制度」では、株主に送付する資料の中で、一部の資料を、紙で送付するのではなく、会社のウェブサイト等に掲載し、そのことによって株主に情報を提供したこととする、という制度が設けられています。 現在の社会変化を受けて定められたもので、この度の改正はこのような日本社会の流れや今後の資本市場にあわせて規定されたものが多くあります。日本企業、日本市場の発展を加速するための改正といえるでしょう。 今後の日本がどう変わっていくのか、注目されます。
会社法についてのまとめ
会社法は、複雑で膨大な内容ですが、企業にとっては切り離すことができない重要な法律です。設立、経営、運営するために必要なことが含まれているため、社会で働くすべての人が知っておいてほしい内容です。 まずは、会社の種類や株式に関する法律から習得してみてください。 また、会社法改正についても日本社会、市場のグローバル化やITの活用により大きく変化していることを受けて会社自体や会社で働く人、取締役、株主、株主総会といった組織の在り方が変化していることから改正が行われました。今後の社会情勢によって、変化していくことは必然的です。これから会社を起業する人、経営している人、企業を運営している人は特に改正ポイントを押さえて、情報をアップデートしていきましょう。