IT技術を活用して業務を改革するデジタルトランスフォーメーション(DX)が注目されていますが、DXを実現するには業務フローの見直しが欠かせません。手作業を前提として業務フローをそのままIT化してもうまくいきません。使いにくいだけの不便な仕組みが出来上がってしまいます。ITを前提として使いやすい業務フローを構築して、DXを実現しましょう。
とはいえ業務フローの作り方が解らない、という方もいるでしょう。しかし業務フローは関係部門との打ち合わせや、引き継ぎマニュアルなど、いろいろな用途で利用できます。作り方は難しくないので、ぜひ作っておきましょう。
今回は業務フローとは何かについてを、業務フローの作り方について解説します。
業務フローとは
業務フローとは、普段の仕事のやり方を目で見えるようにするためにブロック図などで使って描いたものを言います。そして何か専用のアプリで作る訳ではなく、手書きで作れるものです。
普段何気なくやっている作業でも、図で表してみると実に多くの処理をやっていることに気が付かされます。また、やっている本人にとっては当然のことでも、別の人が見ればもっと簡単にやれる方法を提案できるかもしれません。
次から業務フローとはどのようなもので、どうやって作るかについて紹介します。
作業の流れを把握する
普段会社で何気なくやっている作業を、依頼を受けてから何かをアウトプットするまでの処理を順に思い浮かべてみてください。作業によっては1人で順に処理すれば、何かアウトプットするものを作れるかもしれません。また、仕事を分担している別の担当者が作成したものと合わせてアウトプットするものを作るケースもあるでしょう。
このような順番にやっている処理や別の担当者が担当している処理を図に書き出して、それを矢印で継ぎ、作業の流れを表現したものが業務フローです。自分のやっている作業を言葉で表すと難しいかもしれません。しかし図にすることで比較的簡単に誰にとっても解りやすく、それを見れば誰でもその作業の流れを把握できます。
見えにくい作業を見えるようにする
長い間同じ社員が担当している仕事は、その人がやりやすい方法にカスタマイズされており、どうやっているか他の人にとって解りにくくなります。さらに、作業内容をよく知らない方から、無理な日程を押し付けられることもあるでしょう。
そのような作業で業務フローを作成すると、それまで見えなかった作業を見えるようにできます。そして業務フローをうまく活用することで、担当者が不在の時に問い合わせがあったら業務フローを見て回答できるかもしれません。また、業務フローを示せば、適正なスケジュールを交渉できるでしょう。
DXにも必要
最近、デジタルトランスフォーメーション(DX)が注目されていますが、DXを目指してアプリを導入したものの、うまく使いこなせていない企業がたくさんあります。これは現場の作業内容を調べないで、アプリを使わせようとするのが原因の1つです。
DXを目指して高価なアプリを導入するのなら、今実施している作業内容を調べて、それをアプリに合わせなければ、そのアプリの機能を最大限に活用できません。そして、そのためによく作られるのが業務フローです。業務フローをチェックすれば、アプリを利用できるフローと利用できないフローを切り分けたり、ITを使って処理を最適化することも可能です。
DXとはITを活用していままでのやり方とは別の方法を使って、業務を大胆に効率化する方法です。従来のやり方そのままでやろうとしてもうまくいきません。業務フローを作成して、ITを活用した効率化を目指しましょう。
業務フローの作り方
適切に書かれた業務フローは、誰が見ても作業のやり方を理解しやすく、業務改善の他に業務マニュアルや新人研修などにも利用できます。ただし、そのような見やすい業務フローを誰でも簡単に作れる訳ではありません。まずは基本的な書き方に従って他の人に見てもらえるものを書きましょう。
業務フローは、自分が思いついた作業を書き出して、それを矢印で繋げばできるものではありません。しっかり準備して、処理のフローを理解しやすいような工夫が必要です。次から見やすい業務フローを書くための方法を紹介します。
目的を決める
会社で作成する報告書は、誰に向けた文書で、何を報告するか、といった目的をしっかり持っていないと、上司からNGを出されてしまいます。これは業務フローも同じです。業務フローを誰に見せるのか、また、何を伝えるために作るのかを明確にして取り組みましょう。
なお業務フローは、多くの場合、自分がやっている業務内容を知らない人のために、自分がやっている作業手順を説明するものです。自分だけ知っている言葉や記号で書いたとしても、業務フローを見る人は理解できません。できるだけ誰でも解る言葉を使って書きましょう。
また、同じ部署の社員なら誰でもしっている作業でも、他の部署の方にとってはそれがどんな作業か理解できないケースもあります。そのような場合は作業を分解してそのフローも書き出すなど、工夫して書いてください。
関連フローもチェックする
会社の仕事は、自分の作業だけで完結しているケースは稀で、社内のいろいろな部署の担当者と関わっています。多くの場合、違う担当者がやった前の作業の結果を受け取とり、自分の作業をやり、次の担当者に引き渡しているではないでしょうか。もし、業務フローを作る場合、そのような関連部署で行われている作業もチェックしてください。
また自分にとって、作業が終わったら次の担当者に送るのは当然のことでも、業務フローを見る人はなぜこの担当者に送るのか理解できないかもしれません。関連部署の役割や受け入れる際にチェックしている項目などが解るように書いておくと便利です。
タスクを時系列に
タスクとは、作業を構成する手順や処理のことを指す言葉です。業務フローを作る場合、自分のやっている作業をタスクに分解し、それを時系列に並べて書き出す、といった手順で行います。なお業務フローには、流れが解るように書かれていれば、全てのタスクを記述する必要はありません。見やすいフロー図を心がけてください。
通常、業務フローは上から下に処理が流れるようにタスクを並べて、それを矢印で繋ぎます。つまり先に実行するタスクを上に、後から実行するタスクを下に描きます。また同じタイミングで複数のタスクを処理する場合は、それらを横に並べて同じタイミングだと解るように作りましょう。
業務フローの書き方
実際に業務フローを書こうとした場合、多くの方はサンプルを真似て書くのではないでしょうか。インターネットを検索すると多くの例が見つかります。ぜひ、そのような例を参考にしてください。
なお、業務フローを書くための規約があって、それに従わなければならない、ということはありません。とはいえ誰が見ても理解しやすいように書くにはコツがあります。サンプルを参考に見やすい書き方を心がけてください。
初めて業務フローを書く方に注意してほしい業務フローの書き方のポイントは次の3つです。
- 役割に応じて領域を分けて記述する。
- よく使われる図形とそれを繋ぐ矢印で描く。
- 上から下への流れに注意し、時系列に応じて処理の配置を調整する。
この3つのポイントについて次から詳しく紹介します。
役割に応じた領域分け
業務フローは、自分が担当する作業のみ記述すれば良い、という訳ではありません。関連する部門のフローが解るように記述します。そのため、部門や担当者などの役割に応じて領域を分けて、それぞれの業務フローも解るように記述しなければなりません。
具体的には部門や担当者毎に縦線で分けて記述します。ちょうど競泳用プールのレーンに分けて処理フローを記述するので、これはスイムレーンと呼ばれます。そしてスイムレーンを横切る矢印は、他の部門や担当者とのやりたりに使う成果物などが解るように記述しておくと便利です。
また、作業者と評価者を別の領域に分けて書く場合、評価者が何を評価するかを記述しておくと、解りやすい業務フローになります。
図形と矢印の使い方
業務フローはフローチャートと同じように、図形とそれを結ぶ矢印とで記述します。そして良く使われる図形は次の3つです。
- フローの開始や終了を表す図形(角が取れた四角形の図形)
- プロセスや処理を表す図形(四角形の図形)
- 判断を表す図形(ひし形の図形、通常上から入って、判断により右または左に分岐する)
また、それらの図形は矢印を持つ線で結ばれます。この線で描くフローは上から下へ、または左から右へといった矢印の向きで描いてください。ただし、ひし形の図形の判断でNGになった場合の処理は、前の処理に戻るように記述します。
直感的に流れが解るように
業務フローは、業務マニュアルではありません。そのためフロー図に作業の細かい内容を記述する必要はありません。処理内容を指す単語のみ図形に記述し、直感的に業務の流れが解るように記述してください。なおプログラムで作るフローチャートでは無いので、細かい処理や判断をいちいち記述する必要はありません。また、全体の流れの記述を優先し、細かい処理内容は別の業務フローに書くと解りやすくなります。
なお、先ほど紹介したように他の部門とのやりたりに使う成果物や評価でチェックする項目など、フローに関係する内容を図形のそばに記述しておくと、業務の流れを理解しやすくなります。また、処理が翌日になる場合など、同じタイミングで処理できない場合は、線を引いて区別するなどしてその時系列が解るように工夫すると良いでしょう。
業務フロー活用のポイント
業務フローの作成は、関連部門にヒアリングしたりフロー図を描くのみ手間がかかるなど、時間がかかる作業です。時間をかけて作成した業務フローだけに、作って終わりではもったいない。有効に活用する方法を検討しましょう。
業務フローを作るメリットは、他の社員にとって見えにくい仕事のやり方を見えるようにできる点です。このメリットはデジタルトランスフォーメーション(DX)のような会社全体の業務改善にも利用可能ですが、普段の仕事でも活用できます。
次から業務フローを有効に活用するためのポイントを紹介します。
業務マニュアルと連携させる
自分のやっている作業の業務マニュアルはあるでしょうか。多くの企業では、業務を社員に割り当てるのではなく、社員に業務を割り当てるので、任された方が自分で調べてやり方をマスターし、その仕事を担当しています。そのため、引き継ぎ資料はあっても、業務マニュアルを作っていないケースが珍しくありません。
しかし業務フローを作成する段階で、自分の作業とはどのような処理かをチェックします。時間をかけてチェックしたのなら、業務フローに合わせて業務マニュアルも作っておきましょう。
なお、作業の流れは業務フローに書かれています。それを業務マニュアルで説明するのは効率的ではありません。業務マニュアルは業務フローを中心に、そこに記載できなかった内容などを補足して作成すると良いでしょう。
問題点を見つけやすい
会社で仕事をやっているとミスは避けられません。しかし、ミスの内容によっては上司から報告書の提出を求められます。さらに、今後同じミスを避けるための対策も求められるでしょう。
そのようなケースで役に立つのが業務フローです。ミスしてしまった作業で、そのミスを避けるための仕組みや、早めにミスを見つける処理を業務フローを使って検討してください。そして検討した結果を業務フローで説明した報告書を提出すれば、関係者全員が納得してくれるでしょう。
さらに、もし業務フローで他にもミスを発生しやすいやり方が判明した場合は、関係者を巻き込んで業務フローを見直し、ミスしない仕組みに改善することも可能です。
DXの実現に
先ほど紹介したように多くの企業でデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいますが、結果が出ていない企業もたくさんあります。DXとは、何か便利なアプリを導入すれば実現できることではありません。ITを活用して業務そのものを見直し、それを成果に結びつける取り組みです。
従来の紙と電話を使ったオペレーションにITを活用して見直しするだけでも十分効果が見込めます。しかし、従来の業務フローをそのままでIT化しても、なかなかうまくいきません。さらに、業務フローに載らない特殊事項が多いと、それを理由に従来の方法を利用し続ける部門もあるでしょう。
そこで業務フローを作り、IT化した場合の問題点や改善案を関係部門の担当者といっしょに検討しましょう。そして業務フロー全体を見直して、成果に結びつくDXを実現してください。
終わりに
これまで解説したように業務フローとは普段の仕事のやり方を目で見えるようにしたもので、業務の見直しや引き継ぎなど、いろいろな用途で利用できます。誰でも理解しやすい業務フローを作るにはコツがあり、作成に時間もかかりますが、ぜひ作成して自分の業務に活用してください。